トレーニング · 11 MIN READ
HYROXのメンタル|レース中にきつくなったときの考え方とペースを落とす判断
HYROX(ハイロックス)のレース中にメンタルが折れそうになったときの考え方を、海外のコーチの助言・公式ルールブック・研究からまとめました。残り全部ではなく次の1つだけを見る、ペースは呼吸で判断する、休み方がルールブックに書かれている3種目で立て直す、の3つを順に説明します。声かけ(セルフトーク)の研究と、レース前にできる準備も紹介します。

HYROX(ハイロックス)のレース中にメンタルが折れそうになったら、やることは3つです。残り全部を考えるのをやめて「次の1回・次の1種目・次の1km」だけを見ること。ペースは呼吸で判断し、きつければ次のランを少し落とすこと(歩くと大きく時間を失うとされるので、歩くよりゆっくり走るほうが勧められています)。ルールブックに休み方が書かれている種目では、その形で手を止めて立て直すことです。
休み方が書かれているのは、ローイング・ファーマーズキャリー・サンドバッグランジの3種目です(シングルス・2026/27シーズン)。自分への声かけ(セルフトーク)については、スポーツの課題や自転車の実験で成績が上がったという研究があります。HYROXで確かめた研究ではありませんが、コーチの助言と同じ向きの結果です。
根拠にしたのは、海外のHYROXのトレーニングサイト5つの記事6本、HYROX公式ルールブックのシングルス2026/27シーズン版、研究3本(セルフトークの論文2本の抄録と、HYROXの模擬レースを測った研究1本)で、10月9日時点で確認しました。コーチの助言は公式の基準ではありません。序盤の入り方はHYROXのペース配分とRoxzoneの動き方にまとめているので、この記事では中盤以降にきつくなってからの判断を扱います。
対象は疲れや息苦しさで気持ちが折れそうな場面で、痛みや体調の異変があるときの判断は扱いません。厚生労働省の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』の情報シートは、運動中に胸痛、動悸、めまいやふらつき、強い空腹感やふるえ、いつもと違う強い疲れ、関節や筋肉の強い痛み、冷や汗などの異変を感じたら、直ちに運動を中止するよう書いています。
きつくなったときにやること(場面別の一覧)
場面 | やること | 根拠 |
|---|---|---|
残りの長さを考えて気持ちが折れそう | 次の1回・次の1種目・次の1kmだけを見る | Rox Lyfe、ROXZONE |
「もう無理だ」という考えが浮かぶ | 短い合言葉か、動きの合図に置き換える | ROXZONE。声かけの効果は研究あり(HYROX以外の課題) |
ランで息が上がりすぎている | 次のランを少し落とす。歩くと大きく時間を失うとされるので、歩くよりゆっくり走る | ROXZONE、HyroxDataLab |
種目の途中で動けなくなった | ルールブックに書かれた形で止まる(ローイング・ファーマーズキャリー・サンドバッグランジ) | 公式ルールブック |
ノーレップなど想定外のことが起きた | レース前に決めておいた「もしXならY」をそのまま実行する | ROXZONE |
残り全部ではなく「次の1つ」だけを見る
HYROXは1kmのランと1種目を8回繰り返すレースです。残りを全部足して考えると気が重くなるので、見る範囲を「次の1つ」まで狭めます。
ウェルビーイングとパフォーマンスのコーチであるGeorge Andersonは、HYROXの情報サイトRox Lyfeの記事で「レース全体を考えるのではなく、次のレップか次の要素をやり切ることに集中する。バーピーブロードジャンプなら、80mのことを考え込まず、最初の1回を終える」と話しています。トレーニングサイトのROXZONEも、レースをかたまりに分けて、いまのレップといまの種目だけを見るよう勧めています。
ROXZONEが挙げる具体例は、「この1kmを走り切ればスレッド」と次の節目だけを見るやり方です。終えた種目を「2つ終わって残り6つ、3つ終わって残り5つ」と数えていく選手もいると書いています。
頭の中で唱える合言葉を決めておく方法もあります。記事に出てくる例は次のとおりです。エリート選手3人の答えもそろっておらず、どの型が合うかは人によって違います。
型 | 例 | 出どころ |
|---|---|---|
自分を励ます短い言葉 | 「One step at a time(一歩ずつ)」「Stay strong(強く)」「I've got this(自分ならできる)」 | ROXZONE |
勝つと言い切る | 「I can win this(勝てる)」 | Meg Jacoby(RMR Trainingの記事) |
手順を唱える | 「最初のランは楽に、スキーは抑えて、最後は強く」 | Rich Ryan(同) |
何も唱えない | 無言で走ることもあれば、きつかった練習や自分を疑った人を思い出すこともある | Ryan Kent(同) |
否定的な考えが浮かんだときの扱いも、ROXZONEは具体的に書いています。「疲れた」「もう無理だ」と浮かんだら、それを認めたうえで手放し、「フォームに集中」「強く、一定に」のような動きの合図に置き換えます。種目と種目の間では、遅かったランや上手くいかなかった種目を引きずらず、「いま何をするか」に意識を戻します。
ペースを落とすかどうかは呼吸で判断する
ペースを落とすかどうかの判断には、呼吸を使います。ROXZONEは、判断の軸を「呼吸と力感を聞くこと」とし、序盤のランは短い文をあえがずに話せるペース、終盤のランは1〜2語しか話せないくらい、という目安を示しています。
Hybrid Pro Coachは、主観的なきつさ(RPE)を10段階で表し、序盤(ラン1〜3)は6〜7で短い文が話せる程度、中盤(ラン4〜6)は7〜8、終盤(ラン7〜8)は8〜9を目安にしています。終盤に話せる量を書いているのはROXZONEだけですが、序盤を抑えて終盤にきつさを上げる向きは2つのサイトで同じです。数字はコーチ側の目安で、公式の基準ではありません。

この目安に当てはめると、序盤のランで短い文が話せないなら、目安より速く入っています。そこでペースを落とします。
中盤からは、序盤よりきつく感じること自体は想定どおりです。Hybrid Pro Coachは、中盤は疲れが積み重なってきつさが自然に上がるもので、序盤よりかなりきつく感じても崩れているわけではないと書いています。ROXZONEも、多くの選手は最後のランと最後の種目で最大に近い力になるよう少しずつ強度を上げていくとし、余力があれば最後の1〜2本のランを少し上げてよいとしています。
ROXZONEは、ある種目で想定以上に消耗したら、回復のために次のランを少し落とす必要があるかもしれないと書いています。得意な種目で余裕があれば次のランを少し上げてもよいが慎重に、とも書いています。Hybrid Pro Coachは、種目を終えた直後のランは最初の200〜400mを意識して楽に入るよう勧めています。
きつさが種目で上がることは、研究でも測られています。趣味でHYROXに取り組む11人がオープン部門の規格で模擬レースを行った研究では、主観的なきつさ(6〜20で答えるボルグスケール)の最大値の中央値が、ランで16、種目で18でした。心拍数・血中乳酸・きつさの最大値は、いずれも最後の種目のウォールボールで出ています。対象が11人の小さな研究で、数字はこの人数での結果です。
時計の心拍数を目安にしたい場合はHYROXの練習と本番で心拍数をどう使うか、種目ごとにかかる時間は種目別タイムの目安にまとめています。
後半のランの遅れの目安と、ペースを落とすときの走り方
後半のランが序盤より遅くなるのは普通のことです。HyroxDataLabは、ラン1とラン8の速さの差は1kmあたり10〜20秒が普通で、30秒以上遅くなるなら入りが速すぎた、と書いています。同じ記事の別の箇所は20秒を境にしていて線引きはそろっていませんが、20秒までの遅れを問題にしていない点は同じです。後半に1kmあたり10〜20秒遅くなっても、失速したと考える必要はありません。
ランの途中で歩いてよいかという問いに、HyroxDataLabは「できるが、大きく時間を失う。歩くよりゆっくり走るほうがよい」と答えています。シングルスのルールブックを確認した範囲では、ランの区間で歩くことを禁じる規定は見つかりませんでした。
種目の出入りでも、ROXZONEは止まらずに動きながら息を整えるよう勧めています。ランのあと完全に立ち止まらず、小走りで種目に入り、小走りで出ます。息を整える必要があるなら、早歩きをしながら、または器具の準備をしながら行います。ここでの早歩きは立ち止まる代わりの動きで、ランの区間で歩く話とは場面が違います。スキーエルゴやローイングは、最初の5〜10秒を少しゆっくり入り、落ち着いてから上げる方法も挙げています。
ルールブックに休み方が書かれている種目(シングルス・2026/27シーズン)
種目の途中で手を止めたいとき、どの形なら反則にならないかは種目ごとに違います。シングルスのルールブック(2026/27シーズン)で「休んでよい」「止まってよい」と書かれているのは、ローイング・ファーマーズキャリー・サンドバッグランジの3種目です。8種目すべてについて、休み方に関する記載をレースの順番で並べます。
順番 | 種目 | 休み方についてルールブックに書かれていること |
|---|---|---|
1 | スキーエルゴ | 記載は見つかりませんでした |
2 | スレッドプッシュ | 記載は見つかりませんでした |
3 | スレッドプル | 休み方の記載はありません。常に立った姿勢を保ち、座った姿勢や膝をついた姿勢で引くことはできません |
4 | バーピーブロードジャンプ | 記載は見つかりませんでした |
5 | ローイング | 休んでよい。ハンドルをホルダーに戻し、足をフットプレートから外してもかまいません。1000mを終えて審判が完了を確認するまで、立つ・座席を離れる・マシンから降りることはできません |
6 | ファーマーズキャリー | 休むためにケトルベルを地面に置いてよい。置くときにケトルベルを前に動かすことはできません |
7 | サンドバッグランジ | 両足を平行にそろえて止まってよい。レップの間に歩いたり足を滑らせたりすることはできません。サンドバッグは両肩に載せたままにします |
8 | ウォールボール | 「休んでよい」という記載はありません。深さ確認用のボックスが置かれても、休む・座るために使うことはできません |

サンドバッグランジは止まってよい種目ですが、サンドバッグを地面などに下ろして負荷を逃がすと、1回ごとに15秒が加算されます。止まるときも肩に載せたままです。
ウォールボールには、休んで止まったあとに再開するときに関わる規定があります。動作は、腰と膝を伸ばして立ち、ボールを両手で持った姿勢から始めます。地面から拾ってすぐ的に投げることはできません。ボールが的に当たったあとは、キャッチして次の回に入るか、地面に落としてから立った姿勢に戻って始め直します。バウンドしたボールを取ってそのまま続けることはできません。これらに反した回は数えられません(ノーレップ)。
各種目の動作の基準は種目のページ(ローイング・ファーマーズキャリー・サンドバッグランジ・ウォールボール)に、反則の全体は失格になる反則一覧にあります。ここに書いたのはシングルスの規定です。ダブルスには休んでいる人の立ち位置などの決まりが別にあり、ダブルスのルールで扱っています。
休んでも種目を最後まで終えられなかった場合の扱いは、ルールブックの中で書き方が分かれています。記録は付かないがレースは続けてよいとする条文と、失格とする条文があり、どちらがどの場面に当てはまるかは書かれていません。2つの条文の中身はHYROXはどれくらいきつい?にまとめています。自分の大会での扱いは、大会の運営に確認してください。
自分への声かけ(セルフトーク)の効果を調べた研究
合言葉のような自分への声かけは、スポーツ心理学でセルフトークと呼ばれ、効果を調べた研究があります。
1本目は、スポーツでのセルフトークの効果を調べた32の研究をまとめた分析です。全体として中程度のプラスの効果が示されました。細かい動作の課題のほうが大まかな動作の課題より、慣れた課題より新しい課題のほうが効果は大きく、声かけの練習を含むやり方のほうが、含まないやり方より効果が大きいという結果でした。
2本目は、24人が一定の負荷で自転車を限界まで漕ぐテストを受けた実験です。2週間、励ます声かけを練習したグループは、限界までの時間が637秒から750秒に伸びました。練習しなかったグループは486秒から474秒で、変わりませんでした。声かけを練習したグループは、テストの途中で答えた主観的なきつさも7.3から6.4に下がっています。
どちらも抄録で確認した範囲の内容で、対象はスポーツの課題一般と自転車です。HYROXやランで確かめた結果ではなく、2本目は24人の実験室での結果です。1本目の分析では、大まかな動作の課題は、細かい動作の課題より効果が小さい側でした。
1本目の分析では声かけの練習を含むやり方のほうが効果が大きく、2本目の実験も2週間の練習をはさんでいます。この2本に近いやり方をするなら、合言葉は本番の前に、ふだんの練習から使っておくことになります。
レース前にできるメンタルの準備
レース中の判断を楽にするために、前もって決めておけることがあります。いずれもコーチの助言で、効果を測った研究は今回確認していません。
準備 | 中身 | 出どころ |
|---|---|---|
「もしXならY」を決めておく | 例:「序盤にきつくなったら、ランのペースを10秒落とす」「ウォールボールでノーレップを取られたら、息を吸ってフォームを整え、慌てず続ける」 | ROXZONE |
種目ごとの分け方を決めておく | 例:ウォールボール100回を20回ずつに分ける、スレッドプッシュで短い休みを2回入れる | ROXZONE |
うまくいかない場面も頭の中で通しておく | 週に数回、1回5〜10分。スレッドが想定より重い、ファーマーズキャリーで握力が切れる、ノーレップを取られる、といった場面でどう動くかまで思い描く | ROXZONE |
呼吸で立て直す手順を持つ | 例:4秒吸って、4秒止めて、4秒吐く。種目と種目の間を気持ちの切り替えに使う | ROXZONE |
きつさの捉え方を決めておく | きつさを「あと5〜10%出している合図で、これ以上は悪くならず、短い間だけ保てばよいもの」と捉える。レース前に「なぜここにいるか」を思い出す | George Anderson(Rox Lyfe) |
表の中の秒数や回数は、それぞれの記事が示した例で、公式の基準ではありません。スレッドプッシュの途中で止まってよいかは、前の節の表のとおりルールブックに記載が見つかっておらず、短い休みを入れる案はROXZONEが挙げた例です。George Andersonは、レース前の決まった手順の例として、音楽を聴く、レースを思い描く、体を動かすことも挙げています。
決めたことは、本番の前に疲れた状態で試しておけます。本番形式の通し練習はHYROXのシミュレーション、種目の直後に走る練習はコンプロマイズドランにやり方をまとめています。初出場で起きやすい失敗は初めてのHYROXでよくある失敗で確認できます。
KEY TAKEAWAYS
- きつくなったら、残り全部ではなく「次の1回・次の1種目・次の1km」だけを見ます。合言葉は励ます言葉・手順の確認・無言のどれでもよく、エリート選手でも人によって違います。
- ペースを落とすかどうかは呼吸で判断します。序盤のランは短い文が話せる程度(ROXZONE・Hybrid Pro Coach)、終盤は1〜2語しか話せない程度(ROXZONE)が目安です。コーチ側の目安で、公式の基準ではありません。
- HyroxDataLabは、後半のランが1kmあたり10〜20秒遅くなるのは普通だとしています。同じ記事は、歩くと大きく時間を失うので、歩くよりゆっくり走るほうがよいとも書いています。種目で想定以上に消耗したときは、次のランを少し落とす選択肢があります(ROXZONE)。
- シングルスのルールブック(2026/27シーズン)で休み方が書かれているのは、ローイング(ハンドルを戻して座ったまま)・ファーマーズキャリー(ケトルベルを地面に置く)・サンドバッグランジ(両足をそろえて止まる)の3種目です。サンドバッグを下ろすと1回ごとに15秒が加算されます。
- 自分への声かけは、スポーツの課題や自転車の実験で効果が示されています。HYROXで確かめた研究ではなく、効果が大きかったのは声かけの練習を含むやり方です。
- 種目を最後まで終えられなかった場合の扱いは、ルールブックの中で書き方が分かれています。自分の大会での扱いは大会の運営に確認してください。
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