トレーニング · 14 MIN READ
ハイブリッドアスリートとは? 筋トレと持久力は両立できるのか(研究の結果とHYROXとの関係)
ハイブリッドアスリートは、筋力と持久力の両方を意図して鍛える人を指す言葉です。決まった定義は見つかっておらず、書き手によって説明が少しずつ違います。筋トレと持久力トレーニングを同じ時期に進めると筋力が伸びにくくなるのかについては、走ることとの併用の結果が、2012年と2022年のメタ分析で食い違っています。2本の抄録を読み比べ、HYROX(ハイロックス)との関係と、運動習慣のある人が最初に確かめることを、厚生労働省の目安とあわせてまとめました。

ハイブリッドアスリートとは、筋力と持久力の両方を意図して鍛える人のことです。ウェイトを挙げることも、走ることも続け、どちらか1つの競技には絞りません。決まった定義は見つかっておらず、トレーニングの会社やメーカーがそれぞれの言葉で説明しています。HYROX(ハイロックス)は、1kmのランと1種目を8回繰り返すレースで、筋力と持久力の両方が要る大会としてよく名前が挙がります。
筋トレと走る練習を同じ時期に進めると、筋力が伸びにくくなるのではないか、という心配があります。2022年に発表されたメタ分析(複数の研究の結果をまとめて分析したもの)では、有酸素トレーニングを併用しても、最大筋力と筋肥大(筋肉が大きくなること)の伸びに、筋トレだけの場合との有意な差は見られませんでした。伸びが小さくなっていたのは、短い時間で大きな力を出す「爆発的な筋力」です。2012年のメタ分析は、走ることとの併用に限ると、筋力と筋肥大の伸びが有意に小さくなったと報告しています。この点は2022年の結果と食い違っています。
この記事では、2本のメタ分析の抄録(論文の要旨)、厚生労働省の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』、HYROX公式のルールブック(2026/27シーズン)をもとに、言葉の意味、併用について研究で分かっていることと結果が割れていること、運動習慣のある人が最初に確かめることをまとめます(2026年10月5日時点)。
ハイブリッドアスリートとは筋力と持久力の両方を意図して鍛える人
英国でトレーニングプログラムを販売しているHybrid Athlete Clubは、ハイブリッドアスリートを「筋力と持久力の両方を意図して鍛える人」と説明しています。ウェイトを挙げること、走ること、複数の要素を組み合わせたコンディショニングを行い、1つの競技に特化しない人です。
編集部が確かめた範囲では、公的機関や競技団体が定めた定義は見つかりませんでした。どれくらい挙げて、どれくらい走れればハイブリッドアスリートと呼べるのか、という線引きも、今回読んだ資料には出てきません。書き手によって説明が少しずつ違う言葉です。
「ハイブリッドトレーニング」について、スポーツウォッチのメーカーPolarの解説記事は、筋力と持久力を1つの目標にまとめるものだと説明しています。あとで紹介する2本の論文は、筋トレと持久力トレーニングを組み合わせて行うことを「コンカレントトレーニング(concurrent training)」と書き、題にもこの言葉を使っています。この記事では「併用」と書きます。
クロストレーニングとの違いは目標の置き方
似た言葉にクロストレーニングがあります。Polarの解説記事は、2つの違いは意図と構造にあると説明しています。
- クロストレーニング: 1つの競技が主な目標で、それを支えるために別の運動を足します。例に挙げられているのは、マラソンのランナーが関節を休ませながら体力を保つために水泳を加える場合です
- ハイブリッドトレーニング: 筋力と持久力を1つの目標にまとめ、両方を伸ばすことを目指します
この説明を筋トレとランに当てはめると、走ることが目標で、その助けとして筋トレを足している人はクロストレーニングです。走ることと挙げることの両方を目標にしている人が、ハイブリッドトレーニングをしていることになります(当てはめは編集部によるものです)。
言葉の由来として挙げられている2013年の著書
Polarの記事によると、「ハイブリッドアスリート」という言葉は、2013年に出たAlex Viadaの著書『The Hybrid Athlete』で定義されました。筋力系の競技で行う量の多いリフティングと、持久系の競技で行う長い距離のランニングは、相反する練習だと見られていた、と記事は書いています。この2つを両立させる方法として定義された、という説明です。考え方に名前が付き、体系化されたのは2010年代だとしています。
今回読んだ資料の中で、由来に触れているのはPolarの記事だけです。編集部は著書そのものを確認していません。
同じ記事は、広まった背景を3つ挙げています。
- 軍の隊員やラグビー選手のように、仕事や競技で筋力と持久力の両方を求められてきた人がいたこと
- クロスフィットが、ウェイトリフティングと心肺系の運動を混ぜるやり方を世界に広めたこと
- HYROXのように形式の決まったレースが、はっきり測れる目標を作ったこと
メーカーの読み物に書かれた見方で、広まった理由を調べた調査の結果ではありません。クロスフィットとHYROXの中身の違いは、HYROXとクロスフィットの違いで比べています。
HYROXは1回のレースにランと重さを扱う種目の両方が入っている
HYROXは、1kmのランのあとに1種目を行い、これを8回繰り返すレースです。ランは合計8km、種目は8つあります(ルールブック2026/27シーズン)。種目の1つであるスレッドプッシュで押すソリは、シングルスのオープン部門で、男子が152kg、女子が102kgです(ソリの重さを含みます)。
HYROXの公式サイトは、誰でも出られるフィットネスレースとして作ったが、レースである以上、筋力と持久力の両方で練習と準備が要る、と説明しています。準備について書いたページには「50% is Running」という見出しがあり、8kmを1kmずつ8回に分けて走ること、平均で約90分かかることが書かれています。プロ部門とエリート部門の公式結果を7シーズン分まとめた研究では、ランが総時間に占める割合は約50%でした。上位選手のデータで、初めて出る人の割合を示す数字ではありません。
Hybrid Athlete Clubは、ハイブリッドトレーニングをHYROXやそれに似たレースの土台だとしています。ハイブリッドアスリートという言葉は、HYROXに出る人だけを指すものではありません。HYROXは、筋力と持久力の両方を試せる場の1つです。
8種目の順番と内容はHYROXの8種目と順番、競技の全体像はHYROXとは?にまとめています。
筋トレと持久力トレーニングの併用を調べた2本のメタ分析
持久力のトレーニングを加えると筋力や筋肉が伸びにくくなる現象は、「干渉」と呼ばれています。この干渉を調べたメタ分析を、発表の古い順に2本紹介します。
2本とも、筋トレだけを行った場合と、筋トレと持久力トレーニングを併用した場合を比べています。比べているのは、トレーニングによる伸びの大きさです。併用すると今ある筋力が減る、という話ではありません。
2012年のメタ分析では併用の伸びが筋トレだけと持久力トレーニングだけの間だった
2012年にJournal of Strength and Conditioning Researchに掲載されたメタ分析は、21件の研究から422の効果量を集めています。効果量は、伸びの大きさを研究どうしで比べられるようにそろえた数字で、大きいほど伸びが大きいことを表します。
筋力、筋肥大、パワー(素早く力を出す能力)のどれでも、伸びは筋トレだけのグループが最も大きく、次が併用、最も小さいのが持久力トレーニングだけのグループでした。筋力の伸びの効果量は、筋トレだけが1.76、併用が1.44、持久力トレーニングだけが0.78です。

グループの間の差について、抄録に書かれているのは次の2点です。有意な差とは、偶然では説明しにくい差のことです。
- 筋力と筋肥大は、筋トレだけのグループと併用のグループの両方が、持久力トレーニングだけのグループより有意に大きくなっていました
- パワーは、3つのグループすべての間に有意な差がありました
筋力と筋肥大について、筋トレだけと併用の差が有意だったかどうかは、抄録に書かれていません。数字は併用のほうが小さくなっていますが、偶然の範囲を超える差かどうかは、抄録からは分かりません。
2022年のメタ分析では最大筋力と筋肥大の伸びに有意な差が見られなかった
2022年にSports Medicineに掲載されたメタ分析は、43件の研究をまとめています。対象は健康な成人で、指導者の監督のもとで併用トレーニングを4週間以上続けた研究です。比べる相手は、筋トレの内容が同じで、有酸素トレーニングだけを行わないグループに限っています。
結果は、筋トレだけのグループとの差(標準化平均差)で示されています。マイナスは、併用のほうが伸びが小さいことを表します。
測ったもの | 筋トレだけの場合との差 | 有意な差 |
|---|---|---|
最大筋力 | −0.06 | 見られなかった |
筋肥大 | −0.01 | 見られなかった |
爆発的な筋力 | −0.28 | あった(併用のほうが小さい) |
著者は、有酸素トレーニングと筋トレを併用しても、筋肥大と最大筋力の伸びは損なわれない、と結論づけています。爆発的な筋力の伸びについては、小さくなる可能性があるとしています。
2012年と2022年のメタ分析を3つの項目で並べた結果
2本の結果を3つの項目で並べます。結果が食い違っているのは、有酸素の種類の1つです。持久力トレーニングの頻度は、2本の比べ方が違うため、並べて比べられません。素早く力を出す能力は、近い指標で同じ向きの結果になっています。
比べた点 | 2012年(21研究) | 2022年(43研究) |
|---|---|---|
有酸素の種類 | 走ることとの併用では、筋肥大と筋力が有意に小さくなった。自転車との併用では、有意に小さくならなかった | 自転車か走るかで、有意な違いは見られなかった |
持久力トレーニングの頻度と時間 | 持久力トレーニングの頻度と時間が多いほど、筋肥大・筋力・パワーの伸びが小さい関係があった(相関) | 併用の頻度(週5回を超えるか下回るか)で分けて比べ、有意な違いは見られなかった。時間については抄録に記載がない |
パワー(2012年)と爆発的な筋力(2022年) | パワーの伸びは、併用のほうが筋トレだけより有意に小さかった | 爆発的な筋力の伸びは、併用のほうが有意に小さかった |
2012年の分析の「関係があった」は相関です。相関の強さは、頻度が−0.26〜−0.35、時間が−0.29〜−0.75でした。持久力トレーニングの頻度や時間を変えて比べた結果ではないため、増やしたことが原因で伸びが小さくなった、とまでは言えません。著者は、干渉は持久力トレーニングの種類、頻度、時間によると結論づけています。
2022年の分析が頻度について比べたのは、併用の週あたりの回数が5回を超える場合と下回る場合です。持久力トレーニングの頻度や時間との相関を見た2012年とは、比べ方が違います。この項目は、2本の結果が食い違っているとは言えません。
2022年の分析は、ほかの条件でも比べています。鍛えている度合い(未経験か、運動習慣があるか)と平均年齢(40歳より下か上か)でも、有意な違いは見られませんでした。著者は、結果は有酸素の種類、頻度、鍛えている度合い、年齢に左右されないようだ、としています。
どちらが正しいかは、抄録からは判断できません。集めた研究の数も比べ方も違います。2022年の分析は43件で、筋トレの内容が同じグループどうしの比較に限っています。2012年の分析は21件で、筋トレだけと併用を比べた研究と、併用の組み合わせどうしを比べた研究を集めています。筋トレの内容をそろえたかどうかは、抄録に書かれていません。2本から言える範囲は次のとおりです。
- 2012年の分析では、併用でも筋力と筋肥大は伸びており、伸びは持久力トレーニングだけの場合より有意に大きくなっていました。2022年の分析では、筋トレだけの場合と比べた伸びに有意な差は見られませんでした
- パワー(2012年)と爆発的な筋力(2022年)の伸びは、どちらも併用のほうが有意に小さくなっていました。近い指標ですが、同じテストで測ったかどうかは抄録からは分かりません
- 走ることが自転車より筋力の伸びを妨げるかどうかは、結果が割れています
- 持久力トレーニングの頻度については、2本の比べ方が違うため、結果を並べて比べられません

2本とも併用で伸びが小さかったのはパワーと爆発的な筋力
2本のメタ分析は、近い指標で同じ向きの結果を出しています。2012年の分析ではパワーの伸びが、2022年の分析では爆発的な筋力の伸びが、併用のほうが有意に小さくなっていました。Hybrid Athlete Clubの記事は、パワーを「素早く力を出す能力」と説明し、スプリント、ジャンプ、投げる動きのような爆発的な動きが要る競技で役立つとしています。2012年の分析がパワーを、2022年の分析が爆発的な筋力をどのテストで測ったかは、どちらの抄録にも書かれていません。2つが同じ測定だとは限りません。
2022年の分析は、筋トレと有酸素トレーニングの間隔でも比べています。
- 同じセッションの中で行った場合: 爆発的な筋力の伸びが小さくなる傾向が、より目立ちました
- 3時間以上あけて行った場合: 有意な差は見られませんでした
素早く力を出す能力を伸ばしたい人は、筋トレと有酸素の練習を3時間以上あける組み方が、この結果に沿っています。午前と夜に分ける、といった形です(分け方の例は編集部が挙げたものです)。3時間以上あければ影響が出ないと確かめられたわけではありません。有意な差が見られなかった、という結果です。
HYROXに向けた練習には、別の事情もあります。HYROXの公式サイトは、種目をこなした直後に走る感覚を、本番前に練習で体験しておくよう勧めています。ランと種目を続けて行う練習は、本番の状態に慣れるための練習です。編集部は、筋力を伸ばす日の筋トレとは目的の違う練習として、分けて考えるのがよいと見ています(やり方は疲れた状態で走る練習(コンプロマイズドラン)にまとめています)。
男女別に比べたメタ分析では下半身の筋力の干渉が男性で見られた
干渉の出方を男女別に比べたメタ分析もあります。2024年にSports Medicineで発行されたもので、59研究をまとめています。筋トレだけの場合と比べて下半身の筋力の伸びが小さくなったのは男性で、女性では差が見られませんでした。パワーの伸びについて、著者は男女とも小さくなったとまとめています。女性は有意な差でした。男性は、有意と言えるかどうかの境目の結果でした。男女の差は有意ではありません。
2022年の分析は、最大筋力の伸びに有意な差が見られなかったとしていました。2024年の分析では、男女に分けると男性の下半身に小さな干渉が見られています。分析によって結論に幅があります。2024年の分析の著者は、女性を対象にした研究は少なく、よく鍛えた選手のデータも足りないため、追加の研究が必要だとしています。この分析の中身はHYROXに出る女性の筋トレで紹介しています。
メタ分析の結果を読むときの注意点
- 編集部が読んだのは、2012年と2022年の2本とも抄録です。本文は確認していません。条件ごとの細かい数字は、抄録に書かれている範囲に限っています。2024年の男女別の分析は、公開されている本文まで読んでいます
- 2022年の分析の対象は健康な成人で、4週間以上の研究です。HYROXの選手を調べたものでも、HYROXのタイムを測ったものでもありません。併用するとHYROXのタイムが縮むのか伸びるのかは、ここで紹介した研究からは分かりません
- 「有意な差が見られなかった」は、差が無いと証明されたという意味ではありません
- 2012年の分析が示した、持久力トレーニングの頻度や時間と伸びの関係は、相関です
運動習慣がある人が最初に確かめること
ハイブリッドアスリートと呼ぶための基準は見つかりませんでしたが、筋力と持久力の両方を鍛えるときの出発点に使える公的な目安はあります。厚生労働省の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』の成人への推奨事項の中に、次の2つがあります。
- 筋力トレーニングを週2〜3日行う
- 息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上行う
同じガイドは、筋トレを可能であれば有酸素の運動と組み合わせると、さらなる健康増進効果が期待できるとしています。筋トレと有酸素の運動を組み合わせている人は、どちらか一方だけの人より、総死亡などのリスクが低いという報告も紹介されています。関連を報告したもので、HYROXの効果を調べたものではありません。
このガイドでいう筋トレには、マシンやダンベルを使う運動のほかに、腕立て伏せやスクワットのように自分の体重で行う運動も含まれます。成人の健康づくりのための目安で、HYROXの練習量の目安として作られたものではありません。
今の1週間をこの目安と比べると、筋トレと息が弾む運動のどちらが足りていないかが分かります。
- 走っているが筋トレはしていない人: 筋トレを週2〜3日に近づけるところから始めます。HYROXに向けて筋力を足す方法はランナーがHYROXに出るにはにまとめています
- 筋トレはしているが走っていない人: 息が弾む運動を週60分以上に近づけるところから始めます。走力の足し方は筋トレ派がHYROXに出るにはにまとめています
- どちらも続けている人: 出る大会を決めて、種目の練習を加える段階です。初出場のための8週間練習メニューと、練習の日数が限られる人向けのHYROXの練習は週2回でも間に合う?が参考になります
ガイドは、個人差を踏まえて強度や量を調整し、可能なものから取り組むよう勧めています。筋トレについては、休息日を設けること、慣れてきたら少しずつ負荷を高めること、健康づくりが目的ならやりすぎに注意することも挙げています。
友人やパートナーとダブルスに出る場合はランを2人で一緒に走る
ダブルスも構成は同じで、1kmのランと1種目を8回繰り返します。種目は、2人で決めた距離や回数で交代しながら進められます。ランは、2人が毎回一緒に走る決まりです。
走るのが得意な人と筋トレが得意な人が組んでも、ランを相手に任せることはできません。筋トレが得意な人にも、8kmを走る準備が要ります。分担の決め方はダブルスのルールと分担の決め方、2人で行う練習はペアで練習するメニューにまとめています。
KEY TAKEAWAYS
- ハイブリッドアスリートは、筋力と持久力の両方を意図して鍛える人を指す言葉です。編集部が確かめた範囲では、公的機関や競技団体が定めた定義は見つかりませんでした
- HYROXは1kmのランと1種目を8回繰り返すレースで、公式サイトは筋力と持久力の両方で練習と準備が要ると説明しています
- 2022年のメタ分析(43研究)では、有酸素トレーニングを併用しても、最大筋力と筋肥大の伸びに筋トレだけの場合との有意な差は見られませんでした。爆発的な筋力の伸びは、併用のほうが小さくなっていました
- 走ることが自転車より筋力の伸びを妨げるかは、2012年と2022年のメタ分析で結果が割れています。持久力トレーニングの頻度については、2本の比べ方が違うため、結果を並べて比べられません。どちらもHYROXの選手やタイムを調べた研究ではありません
- 出発点に使える目安は、厚生労働省のガイドの「筋トレを週2〜3日」と「息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上」です。ダブルスではランを2人で一緒に走るため、筋トレが得意な人にも走る準備が要ります
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