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トレーニング · 12 MIN READ

HYROXに必要なVO2maxは? 論文10本で分かった測定値・心拍・タイムを左右する要素

HYROX(ハイロックス)に何以上のVO2max(最大酸素摂取量)が必要、という基準値を示した論文は見つかりませんでした。PubMedで見つかるHYROXの論文10本のうち、参加者のVO2maxを実際に測った2本の値は、HYROX経験者11人の模擬レースで中央値51、公式大会に出たPRO男子24人で平均約51.6 mL/kg/分です。この10本から、VO2maxとタイムの関係、レース中の心拍数・乳酸、タイムを左右する要素、研究から言えないことをまとめました。

HYROXに必要なVO2maxは? 論文10本で分かった測定値・心拍・タイムを左右する要素

HYROX(ハイロックス)に出るにはVO2max(最大酸素摂取量)がいくつ以上必要、という基準値を示した論文は見つかりませんでした。PubMedで見つかるHYROXの論文10本のうち、参加者のVO2maxを実際に測った研究は2本あり、模擬レースを行ったHYROX経験者11人で中央値51 mL/kg/分、公式大会に出たPRO男子24人で平均約51.6 mL/kg/分です。

基準値は無いものの、VO2maxが高い人ほど完走タイムが短い傾向は出ています。11人の研究では、完走タイムと関係があったのはVO2max・週あたりの持久系トレーニングの時間・体脂肪率で、握力や筋トレの時間とは関係が見られませんでした。上位選手の結果を7シーズン分析した研究でも、ランが総タイムの約50%を占め、総合順位と最も強く関係していました。一方で、ソリなどの筋力型の種目が弱いと、遅い層ほど総タイムが大きく延びます。

この記事では、米国国立医学図書館の論文データベース(PubMed)で「hyrox」を検索して出てくる論文10本(2026年10月12日時点)をもとに、VO2maxの測定値、自分の値と比べる目安、タイムを左右する要素、レース中の心拍数・乳酸、研究から言えないことを、研究の対象と人数を添えてまとめます。

01

HYROXの研究で測られたVO2maxは51前後

VO2maxは、体内に取り込める酸素の1分間あたりの最大量です。単位のmL/kg/分は、1分間に体重1kgあたり何mLの酸素を取り込めるかを表します(Garminの腕時計の操作マニュアルの説明)。

HYROXの参加者のVO2maxを実験室のトレッドミルで測った研究は、次の2本です。

研究

対象

VO2max(mL/kg/分)

レースのタイム

ドイツ・Brandtほか(2025年)

HYROX経験者11人(男性8人・女性3人、年齢の中央値33歳)

中央値51(最小46.6〜最大72)

模擬レースで中央値86.5分

スペイン・Gutiérrez-Hellínほか(2026年)

PRO男子24人

平均51.56(標準偏差5.00)

公式大会(HYROX Madrid 2025)で平均69分58秒

11人の研究では、11人中10人の心肺持久力が「とても良い〜優秀」、1人(男性)が「良い」の水準でした。

2本の値はほぼ同じですが、ここから「VO2maxはタイムに関係しない」とは言えません。対象が男女混合か男子だけか、中央値か平均か、測った施設がどこかが違うためです。VO2maxとタイムの関係は、同じ人たちの中で比べた11人の研究(後の節)で見ます。

VO2maxが何以上なら完走できる、何以上ならPRO部門で走れる、という値は、この2本にも、PubMedで見つかるほかの論文にも示されていません。HYROXで測られたVO2maxは、この2つの集団の値だけです。

02

自分のVO2maxと比べる目安

自分のVO2maxを知るには、研究と同じようにトレッドミルで限界まで走って測る方法のほかに、腕時計の推定値を見る方法があります。

Garminの腕時計では、ユーザープロフィールと最大心拍数を正しく設定したうえで、屋外でGPSを受信し、最大心拍数の70%以上の心拍数に達する強度で10分以上走ると、ランニングのVO2maxの推定値が出ます。初めて測った値は不正確な場合があり、何回か走って時計に学習させる必要があると、操作マニュアルに書かれています(時計の選び方はHYROXに使う腕時計)。

同じマニュアルには、推定値を年齢と性別で分類した表(The Cooper Institute のデータ)が載っています。20〜40代の欄を抜き出すと次のとおりです。

男性(mL/kg/分)

分類

20〜29歳

30〜39歳

40〜49歳

優れている(上位5%以上)

55.4

54

52.5

非常に良い(上位20%以上)

51.1

48.3

46.4

良い(上位40%以上)

45.4

44

42.4

普通(上位60%以上)

41.7

40.5

38.5

女性(mL/kg/分)

分類

20〜29歳

30〜39歳

40〜49歳

優れている(上位5%以上)

49.6

47.4

45.3

非常に良い(上位20%以上)

43.9

42.4

39.7

良い(上位40%以上)

39.5

37.8

36.3

普通(上位60%以上)

36.1

34.4

33

11人の研究の中央値51をこの表に当てはめると、30〜39歳の男性なら「非常に良い」(48.3以上)と「優れている」(54以上)の間、30〜39歳の女性なら「優れている」(47.4以上)を上回る値です。

ただし、Garminの表は腕時計の推定値を分類したもので、研究の「とても良い〜優秀」は論文が引用した別の基準(Heyward、2006年)による分類です。研究の値は実験室で測ったもので、腕時計の推定値と同じ測り方ではありません。研究の参加者は男女が混ざっているため、比べるときは自分の年齢と性別の欄を目安にとどめてください。

03

VO2maxが高い人ほど完走タイムが短かった(11人の模擬レースの研究)

VO2maxとタイムの関係を同じ人たちの中で調べたのが、ドイツのBrandtほか(2025年)の研究です。HYROX経験者11人(HYROX歴の中央値18か月、公式大会に1回以上出場)が、オープン部門の規格で1人ずつ模擬レースを行いました。完走タイムは中央値86.5分で、ランの合計(51.2分)が種目の合計(32.8分)より長くかかっています。

完走タイムとの関係(順位相関係数ρ)は次のとおりです。マイナスは値が大きいほどタイムが短い(速い)こと、プラスは値が大きいほどタイムが長いことを表します。

項目

相関係数ρ

統計的に意味のある関係

VO2max

−0.71

あり(p=0.01)

週あたりの持久系トレーニングの時間

−0.68

あり(p=0.04)

体脂肪率

0.67

あり(p=0.03)

週あたりの筋トレの時間

0.34

なし(p=0.31)

握力

0.09

なし(p=0.79)

HYROX経験者11人の模擬レースの研究で、完走タイムとの相関の強さを横棒で示した図。関係があったのはVO2max(0.71・高いほど速い)、週あたりの持久系トレーニングの時間(0.68・長いほど速い)、体脂肪率(0.67・高いほど遅い)。週あたりの筋トレの時間(0.34)と握力(0.09)とは関係が見られなかった
出典:Brandtほか(2025年)Frontiers in Physiology 本文の表3(2026年10月12日確認)。数字は相関係数ρの絶対値

ランと種目に分けて見ると、関係が見られたのはランの合計タイムだけで、種目の合計タイムとはどの項目も関係が出ませんでした。著者は、HYROXは持久力の比重が大きく、最大筋力・協調性・柔軟性への要求は、ほかの高強度ファンクショナルトレーニングより中程度〜低い、と結論づけています(筋力や握力との関係はHYROXに必要な筋力で詳しく扱っています)。

この研究を読むときは、次の点に注意が要ります。

  • 人数が11人と少なく、1人を除いて心肺持久力が高い層だった。握力も11人中8人が年代の平均以上だった
  • 女性は3人だけで、男女別の結果は出せない
  • 1人ずつ(競争相手も観客もいない状態で)走り、ランは競技用のトラックではなく、ソリも公式大会のものと違った
  • 相関は、VO2maxを上げればタイムが縮むことを確かめたものではない

著者自身も、結果を一般化できる範囲は限られるとし、今後は大会の条件をより正確に再現するか、公式大会で測るべきだとしています。

04

VO2maxを伸ばす練習はランニングの研究が参考になる

HYROXの練習でVO2maxがどれだけ伸びるかを調べた研究は、PubMedの10本の中にはありません。参考になるのは、ランニングなどの持久系の研究です。

中程度に鍛えた健康な男性40人を4つのグループに分け、週3日・8週間の練習を比べた研究(Helgerudほか、2007年)では、最大心拍数の90〜95%で4分走り、70%で3分つなぐことを4回繰り返す「4×4分」のインターバルでVO2maxが7.2%、15秒速く走って15秒つなぐことを繰り返す「15/15」で5.5%増えました。どちらも、ゆっくり長く走るグループや乳酸性作業閾値のグループより大きく伸びています。

高強度ファンクショナルトレーニング(HIFT)全般の研究39本を整理したレビュー(2025年)の抄録には、VO2maxの8〜15%増の報告が多いとあります。ただし、その練習の期間や対象は抄録に書かれていません。著者も、これをHYROXなど特定の大会の練習の効果とはしていません。ランの練習の組み方はHYROXのランニング練習、練習の強さを心拍数で決める方法はHYROXの心拍数とゾーン2トレーニングにまとめています。

05

タイムを左右するのはランで、筋力型の種目が弱いと遅い層ほど響く

上位選手のタイムが何で決まっているかは、ドイツのRappeltほか(2026年)の研究が調べています。HYROXの公開結果のうち、PRO・ELITEの個人戦39,696件(女子11,842件・男子27,854件)を、第1〜7シーズン(2018/19〜2024/25)で分析したものです。

ランは総タイムの約50%を占め続け、ランの順位と総合順位のずれも小さい結果でした。著者は、総合成績はランの成績と最も強く関係し、筋力型の種目も無視できない寄与がある、と結論づけています。

記録の伸びもランが中心です。第4〜7シーズンの間に、PROの男女とも中央値で約8〜10分速くなりました。上位100位の総タイムは、第1〜7シーズンで男子が約13分(約19%)、女子が約17分(約21%)短くなり、その大半はラン(男子約8分・女子約10分)でした。

一方で、スレッドプッシュ・スレッドプル・スキーエルゴ・ファーマーズキャリー・ウォールボールの5種目は、種目の順位と総合順位のずれが大きく出ました。種目の成績が悪い遅い層ほど、総タイムへの影響が大きくなっています。著者は、これらの種目が弱いと、特に遅い層で総タイムが大きく延びうる、としています。

この研究の限界として、著者は、結果が自己申告を含む公開データベースから取ったものであること、PROには出場の基準が無く力の幅が広いこと(そのため上位100位の分析を加えた)を挙げています。上位選手のデータなので、初めて出る人にそのまま当てはめることはできません(ランの必要な力はHYROXに必要な走力、種目ごとの所要時間はHYROXの種目ごとのタイム)。

06

レース中の心拍数・乳酸・ラン速度

11人の模擬レースでは、心拍数が最大心拍数の90〜100%にあった時間が、中央値で全体の約8割(79.5%)、70〜90%にあった時間が19.6%でした(どちらも中央値のため、足しても100%にはなりません)。平均心拍数は170.9拍/分で、種目中(173.7拍/分)のほうがラン中(168.9拍/分)より高めです。

血中乳酸の最大値(中央値)も、種目が8.5 mmol/L、ランが7.7 mmol/Lで種目のほうが高く、主観的なきつさ(6〜20の尺度)の最大値は種目が18、ランが16でした。心拍数・乳酸・きつさの最高値は、どれも最後の種目のウォールボールで出ています。

公式大会を走ったPRO男子24人の研究では、大会前の10日以内に実験室で測った値と、大会中のラン速度を比べています。実験室では、運動のきつさの境目の1つである第2換気性閾値(VT2)の走速度が時速16.41km、VO2maxに達する走速度が時速18.08kmでした(いずれも平均)。

大会中のラン速度は、ラン1の時速16.13kmからラン8の時速13.58kmまで、区間を追うごとに下がりました。最も遅かったのは、ランと種目をつなぐロクスゾーンの時速10.52kmです。ラン8区間とロクスゾーンを合わせた8.70kmの平均の速さは、VT2の速度の84.13%、VO2maxに達する速度の76.33%でした。著者は、PRO男子のランは最大より下の強さで走られ、区間を追って落ちていくとし、相対的に高い強さを保てることがラン全体の時間を短くする中心にあるように見える、としています。

2本は対象も指標も違います。11人の模擬レースでは、心拍数で見て時間の約8割が最大心拍数の90〜100%でした。PRO男子24人の公式大会では、ランの速度がVT2の速度の84.13%、VO2maxに達する速度の76.33%にとどまり、区間を追って落ちました。ペースの決め方はHYROXのペース配分、レースのきつさの全体像はHYROXはきつい?にまとめています。

07

HYROXを対象にした論文10本の一覧

PubMedで「hyrox」を検索して出てくる論文10本(2026年10月12日時点)を、知りたいことごとに並べ直すと次のようになります。

HYROXの研究で分かっていることと分かっていないことを、知りたいことごとにまとめたカード図。VO2maxは基準値が無く、測られた値は経験者11人の中央値51とPRO男子24人の平均51.56。タイムはランが中心で、上位選手では総タイムの約50%。レース中は時間の約8割が最大心拍数の90〜100%で、PRO男子のランは区間を追って遅くなる。ケガは89人を12週間追った研究があり、睡眠は男性8人の測定だけ。練習法を変えるとタイムが縮むかを調べた研究は無い
出典:PubMedで「hyrox」を検索して出てくる論文10本の抄録と本文(2026年10月12日確認)

研究(発表年)

対象

調べたこと

主な結果

Brandtほか(2025年)

HYROX経験者11人

模擬レース中の体の反応と、タイムに関係する要素

時間の約8割が最大心拍数の90〜100%。タイムはVO2max・持久系トレーニングの時間・体脂肪率と関係

Gutiérrez-Hellínほか(2026年)

PRO男子24人

公式大会のランの強さとペース

ラン速度は区間を追って低下。平均はVT2の速度の84.13%

Rappeltほか(2026年)

PRO・ELITEの個人戦の結果39,696件

第1〜7シーズンの成績の推移

ランが総タイムの約50%。上位100位は男子約13分・女子約17分短縮

Fernández-Navarreteほか(2026年)

公式ランキングの186,411件

部門・区間ごとの基準値

個人・ダブルス・リレーの平均と10〜90パーセンタイルの基準値を作成(抄録に数値は無い)

Fernández-Navarreteほか(2026年)

第1〜5シーズンの参加者278,063人

参加者数の推移

145大会・22か国。2020/21を除き全部門で前シーズンより増加

Chittendenほか(2026年)

HYROXの参加者89人(女性56人)

12週間の健康問題と故障

故障は1,000時間あたり14.4件、使いすぎによるものが73%、部位は膝が最多

Buoite Stellaほか(2026年)

HYROX選手の男性8人(23〜32歳)

睡眠の量と質

睡眠時間は約6.6時間。筋トレの夜は寝つきに平均29分、持久系の夜は10分

腸内細菌の研究(2026年)

HYROX選手・ムエタイ選手・運動習慣の無い成人の計38人

腸内細菌の構成

HYROX選手の群は食事の介入と補助食品を同時に受けていて、競技の影響だけを切り出せる設計ではない

HIFTのスコーピングレビュー(2025年)

研究39本

高強度ファンクショナルトレーニング全般の体の適応

VO2maxの8〜15%増、主要な種目の筋力の10〜20%増が多く報告。HYROXの効果とはしていない

負荷の測り方の総説(2025年)

—

クロスフィットやHYROXの体への負荷の測り方

精度の高い機器は研究向け。日々の指導には心拍数・主観的なきつさなどの安価な方法を勧める

故障の研究は、HYROXの参加者89人に健康問題の質問票に12週間毎週答えてもらったもので、週ごとの回答率は平均62%でした。何らかの健康問題を抱えていた人は週ごとに30%、そのうち「かなりの問題」は18%です。部位ごとの内訳や予防の考え方はHYROXのケガで扱っています。

睡眠の研究は8人だけの測定で、非アスリートの基準よりレム睡眠が約5%少なかったと報告していますが、ここから睡眠のとり方を決めることはできません。腸内細菌の研究は食事と補助食品の介入を含むため、この記事では結果に触れません。

08

研究から言えないこと

HYROXの研究はまだ数が少なく、次のことは分かっていません。

  • 練習法の効果: 練習の内容を変えるとHYROXのタイムが縮むかを調べた研究は、10本の中に無い
  • VO2maxの基準値: 何以上なら完走できる、PRO部門で走れる、という値は示されていない
  • 対象の偏り: VO2maxを測ったのは、体力の高い経験者11人(女性3人)とPRO男子24人だけ。上位選手の分析は自己申告を含む公開データで、オープン部門の多くの参加者とは力の幅が違う
  • 大会の条件: 11人の研究は1人ずつの模擬レースで、競争相手・観客・公式のソリ・トラックがそろっていない

VO2maxの基準値を示した研究は見つかっていません。研究で分かっているのは、ランが総タイムの約50%を占めること、レース中は時間の多くが最大に近い心拍数になること、筋力型の種目が弱いと遅い層ほど総タイムが延びること、の3点です。ただし、対象は経験者11人、PRO男子24人、PRO・ELITEの結果に限られます。HYROXの全体像はHYROXとは、種目の一覧は種目のページから確かめられます。

09

KEY TAKEAWAYS

  • HYROXに何以上のVO2maxが必要、という基準値を示した論文はありません。測られた値は、HYROX経験者11人の中央値51、PRO男子24人の平均約51.6 mL/kg/分です
  • 11人の研究では、VO2maxが高いほど完走タイムが短い関係(ρ=−0.71)があり、握力や筋トレの時間とは関係が見られませんでした。ただし人数が少なく、体力の高い人が多い研究です
  • 上位選手の7シーズンの結果では、ランが総タイムの約50%を占め、総合順位と最も強く関係していました。筋力型の5種目が弱いと、遅い層ほど総タイムが延びます
  • レース中は、時間の約8割で心拍数が最大の90〜100%に達し、乳酸ときつさの最高値は最後のウォールボールで出ました。PRO男子のランは区間を追って遅くなります
  • 自分の値はGarminなどの腕時計の推定値で目安をつかめます。分類表は年齢と性別ごとで、研究の値とは測り方が違います
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