トレーニング · 10 MIN READ
HYROXに必要な筋力はどれくらい? 部門ごとの重さで確かめる目安と、研究・トレーニングガイドの見方
HYROX(ハイロックス)は筋力より持久力の比重が大きい競技で、HYROX経験者11人の研究では完走タイムと筋トレの時間に相関は見られませんでした。一方で、大会の重さを動かすのがやっとだと、その種目だけで体力を使い切ります。ルールブック(2026/27シーズン)の部門ごとの重さ、研究2本、立場の違うトレーニングガイド2本を読み比べ、自分の筋力が足りているかを確かめる方法をまとめました。

HYROX(ハイロックス)は、筋力より持久力の比重が大きい競技です。HYROX経験者11人に模擬レースをしてもらった研究では、完走タイムと相関したのは最大酸素摂取量や持久力トレーニングの時間で、週あたりの筋トレの時間や握力とは相関が見られませんでした。
ただし、筋力がいらないわけではありません。大会の重さを動かすのに最大に近い力が要る状態だと、その種目だけで体力を使い切ってしまいます。目安になるのは、自分が出る部門の重さを、疲れていない状態で無理なく動かせるかです。楽に動かせるなら、筋力をさらに伸ばすより、ランや技術の練習を優先した方が伸びしろは大きいと考えられます。動かすのがやっとなら、まず筋力をつけるところから始めます。
この記事では、HYROX公式のルールブック(2026/27シーズン)の部門ごとの重さに、研究2本と、筋力の基準について立場の違う海外のトレーニングガイド2本を重ねて、自分の筋力が足りているかを確かめる方法をまとめます(2026年10月2日時点)。
研究では完走タイムと筋トレの時間に相関は見られなかった
HYROXの筋力の話でよく引かれるのが、ミュンヘン連邦軍大学の研究者が2025年に発表した研究です。HYROX経験者11人(男性8人・女性3人)が、オープン部門の重さで模擬レースを行いました。
完走時間は中央値で86.5分でした。ランの合計は中央値51.2分で、種目の合計(中央値32.8分)より長くかかっています。完走タイムと最も強く相関したのは最大酸素摂取量(VO2max)で、次いで週あたりの持久力トレーニングの時間、体脂肪率でした。
一方で、握力と筋肉量の割合は成績と相関しませんでした。週あたりの筋トレの時間(参加者の中央値は週4時間)も、完走タイムとの相関は統計的に有意ではありませんでした。ランと種目を分けて見ると、参加者の特徴と相関が出たのはランのタイムだけで、種目のタイムとはどれも相関していません。
研究者はこの結果から、HYROXは持久力を重視した種目で、ほかの高強度のファンクショナルトレーニング(クロスフィットなど)と比べると、最大筋力にかかる要求は中〜低程度だと結論づけています。
種目は短い時間でも体への負担が大きい
種目が楽だったわけではありません。心拍数・血中乳酸・主観的なきつさは、いずれもランより種目の方が高く、最大になったのは最後のウォールボールでした。主観的なきつさの最大値(6〜20の尺度・中央値)は、種目が18、ランが16です。
重い負荷を扱うスレッドプッシュ(中央値128秒)とスレッドプル(中央値155秒)は、種目の中で最も短い時間で終わっています。時間の多くはランが占め、種目は短くても体への負担が大きい、という結果です。
研究を読むときの注意点
人数が11人と少ないうえに、参加者の体力は高めでした。1人を除いて心肺持久力は「とても良い〜優秀」の水準で、握力も11人中8人が年代の平均以上です。論文自身も、結果を一般化できる範囲は限られるとしています。もともと一定の筋力がある人たちの中では筋力の差がタイムの差になりにくかった、と読むのが無難です。
上位選手のデータもあります。プロ・エリート部門の公式結果を7シーズン・39,696件分析した研究では、ラン区間が総所要時間に占める割合は一貫して約50%でした。こちらは上位選手の数字なので、初めて出る人にそのまま当てはめることはできません。なお、HYROX公式サイトにも練習の準備を説明するページに「50% is Running」という見出しがありますが、これはレース時間を測った数字ではありません。8kmのランを1kmずつ8回に分けて走る、というレースの組み立てを指した言葉です。
部門ごとに扱う重さ(2026/27シーズン)
自分の筋力が足りるかは、出る部門の重さで考えます。重さが決まっている5種目について、ルールブックの数字を、同じ重さを使う部門ごとにまとめると次のようになります。

女子のシングルス・ダブルス・リレーは、ソリを押すスレッドプッシュが102kg(ソリ込み)、引くスレッドプルが78kg、ファーマーズキャリーが16kgのケトルベル2つで200m、サンドバッグランジが10kgで100m、ウォールボールが4kgのボールを100回です。男子のシングルス・ダブルス・リレーと女子プロでは、これが152kg・103kg・24kg×2・20kg・6kgになり、男子プロでは202kg・153kg・32kg×2・30kg・9kgになります(全部門の表はHYROXの重量一覧)。
ミックスダブルスでは、女性も男子と同じ152kgのソリを押し、24kgのケトルベルを運びます。 パートナーとミックスダブルスに出る女性は、女子シングルスより重い重さを想定しておく必要があります。
ダブルスは、1人が動いている間にもう1人が休み、距離や回数を自分たちで決めて交代する方式です。距離は2人で分け合えますが、ソリの重さは軽くなりません。押す番が来たら、どちらも同じ重さのソリを動かします。2人で出るなら、2人ともがその重さを一度は動かしておくと安心です。
数字だけを見ると重く感じますが、英国のジムのコーチが書いたReal World Fitnessの記事は、大会の重さは軽くはないものの最大筋力のテストではないとしています。152kgのソリを押すことは152kgのスクワットとは比べられず、床との摩擦やソリそのもの、技術や体の位置で必要な力が変わります。ファーマーズキャリーがきついのも、48kg(24kg×2)を持ち上げるからではなく、疲れた状態で200m運び続けるからだ、という説明です。HYROXが求めるのは、1回だけ最大の力を出すことではなく、疲れた状態で何度も力を出すことです。
大会の重さを疲れていない状態で動かせるかで確かめる
筋力が足りているかの見分け方として、Real World Fitnessは、大会の重さを実際に動かしたときの手応えを挙げています。
- ソリを動かし始めるのに最大に近い力が要るなら、1本ごとに大きく体力を削られる
- ケトルベル2つ(男子オープンなら24kg×2)を持つのが握力と上半身の限界に近いなら、200mは楽に運べる人とはまったく別の距離になる
- 疲れていない状態で20kgのサンドバッグを担いだランジが安定してできないなら、筋力をつける必要がある
- 1回は楽にできるのに、40mを過ぎると脚が焼けるようで何度も止まるなら、問題は最大筋力とは限らない
ウォールボールについても、スクワットでボールよりはるかに重い重さを扱えても、レースの最後に100回きれいにできるとは限らないとしています。筋トレの重さを足すだけでは解決しないことがあり、どこかで、疲れた状態で力を出し続ける練習が要るという考え方です。

例の20kgは、男子オープン・女子プロ・ミックスダブルスのサンドバッグの重さです。この記事が考え方の土台に置いているのは、大会の重さが自分の出せる力に占める割合です。この割合が小さいほど重さを楽に扱え、後に続く種目やランに余力を残せます。女子の部門で出るなら、10kgのサンドバッグや16kgのケトルベルで同じことを確かめることになります。
記事は、オープン部門に出る2人を例に挙げています。自分の体重でのスクワットにも苦労し、16kgのケトルベル2つより重い物を運んだことがない人は、大会の重さが今の力に近すぎるので、基本的な筋力をつけることで大きく変わります。反対に、180kgのスクワットを楽にこなす人がそれを200kgに伸ばすことを、HYROXのための優先事項とするのは難しく、8kmのランで何分も失っているなら、そちらの方が伸びしろは大きい、という見方です。
必要な強さについての記事の結論は、「大会の重さがレースを支配しない程度」です。同じ記事は別の箇所で、筋力が大きな弱点でなくなるところまで強くなることと、できるだけ強くなることは違う、とも書いています。
体重比の目標値は記事によって立場が違う
ジムで測れる数字の目安を探すと、体重の何倍を挙げられればよいかを示す記事が見つかります。HYROX向けのパーソナルトレーニングジム、Hunger in the Wildの記事は、「一般的な目安であり、厳密な条件ではない」と断ったうえで、次の表を載せています。
種目 | Recreational | Competitive | Elite |
|---|---|---|---|
バックスクワット | 体重の1倍 | 体重の1.5倍 | 体重の2倍 |
デッドリフト | 体重の1.25倍 | 体重の1.75倍 | 体重の2.25倍 |
オーバーヘッドプレス | 体重の0.5倍 | 体重の0.7倍 | 体重の0.85倍 |
バーベルロウ | 体重の0.6倍 | 体重の0.85倍 | 体重の1.1倍 |
ファーマーズキャリー(大会の重さ) | 40mを置かずに運ぶ | 100mを置かずに運ぶ | 200mを置かずに運ぶ |
Recreational・Competitive・Eliteは、この記事が独自に付けた体力の段階で、HYROX公式の部門(オープン・プロ)とは関係ありません。同じ記事は、スクワットが体重と同じくらいの人が競技志向のタイムを狙うなら、走る練習を増やすより先にスクワットを体重の1.5倍まで伸ばす方が、スレッドプッシュ・サンドバッグランジ・ウォールボール・ランのすべてに効く、と勧めています。
これに対してReal World Fitnessは、「このスクワットの重さを挙げられればHYROXに十分」という科学的に確立された数字は無く、ネット上の基準は実証された閾値ではなくコーチの経験則として受け取るべきだ、という立場です。出場の前に体重の1.5倍のスクワットが必要だと人に言うことはない、とまで書いています。先に見た研究でも、週あたりの筋トレの時間と完走タイムに相関は見られませんでした。
友達やパートナーと完走を目指すなら、表で見るのは一番左の列です。スクワットは体重と同じくらい、ファーマーズキャリーは大会の重さで40mを置かずに運べるかが、一つの目安になります。ただ、どちらの記事の立場に近いとしても、自分の部門の重さを実際に動かしてみる方が、体重比の数字より直接の答えになります。
サンドバッグランジなどの筋力系の種目は練習で縮めやすい
筋力をつけたときに差が出やすい種目について、トレーニングガイドのHyrox Vaultは、男子オープンのサンドバッグランジのおおよその所要時間を、エリートで2分45秒〜3分15秒、初心者で6分〜8分以上としています。初心者とエリートの差は4分以上で、コースの中ではバーピーブロードジャンプに次いで2番目に大きい差だという見方です。
上位選手の研究では、シーズンを通じた記録の伸びが最も大きかったのはランでした。種目の中では、ローイングとスキーエルゴの伸びが小さく、スレッドプル・ファーマーズキャリー・サンドバッグランジ・ウォールボールのような筋力が関わる種目のほうが伸びが大きく、総合順位と種目ごとの順位の食い違いも大きい傾向がありました。その種目だけ際立って強い選手や弱い選手が出やすい、ということです。こちらもプロ・エリート部門のデータなので、傾向として見るにとどめてください。
種目ごとに気をつけたい点も、トレーニングガイドに書かれています。
筋力が足りないと分かったときの練習の組み方
確かめてみて筋力が足りないと分かったら、普段の練習のどこに筋トレを入れるかを考えます。Real World Fitnessは、走るがほとんど筋トレをしない人に、大会よりかなり前から基本的な筋力づくりを始めるよう勧めています。具体的には、スクワットとランジを正しくできるようにする、引く力と運ぶ力をつける、実際の種目の動きを経験しておく、の3つです。反対に、筋トレはするがあまり走らない人には、直前の数週間に詰め込まず、早めに走り始めて量を少しずつ増やすよう勧めています(それぞれランナーがHYROXに出るにはと筋トレ派がHYROXに出るにはで詳しく扱っています)。
同じ記事は、練習のたびにレースを再現する必要はないとも書いています。スクワット、スプリットスクワット、ヒンジ(デッドリフトのように股関節を折る動き)、ロウ、プレス、重りを持って運ぶ種目といった普通の筋トレは、サーキットの途中に毎回埋め込むより、十分に休んで負荷を段階的に増やす方が筋力を伸ばしやすい、という考え方です。研究の著者らも、ソリのように重い重さを動かす種目がある以上、練習には筋トレもある程度含めるべきだとし、練習は個人の弱点に合わせて組むよう勧めています。
そのうえで、大会が近づいたら、疲れた状態で種目をこなす練習も入れます。HYROX公式サイトは、スレッドプッシュを大会前に少なくとも1回は試しておくよう案内しています。Real World Fitnessも、本番で初めてHYROXのソリに触れるべきではないとし、ソリを押した後のランのペースの感覚や、疲れた状態でウォールボールができるかを、本番前に知っておくよう勧めています。
ソリのあるジムが近くに無い場合は、普通のジムでできるHYROXの練習メニューや、スレッドプッシュの代用トレーニング・サンドバッグランジの代用トレーニングを参考にしてください。パーソナルトレーニングを受けているなら、自分の部門の重さとこの記事の確かめ方をトレーナーに伝えて、メニューに組み込んでもらう方法もあります(伝えることはパーソナルトレーナーにHYROX対策を頼むときにまとめています)。
KEY TAKEAWAYS
- HYROXは筋力より持久力の比重が大きい競技です。HYROX経験者11人の研究では、完走タイムと相関したのは最大酸素摂取量や持久力トレーニングの時間で、筋トレの時間や握力とは相関が見られませんでした
- ただし、研究の参加者は少人数で体力も高めでした。大会の重さを動かすのがやっとの人に、そのまま当てはまるとは限りません
- 目安は、自分の部門の重さを疲れていない状態で無理なく動かせるかです。ミックスダブルスでは女性も152kgのソリを押し、ダブルスで距離を分けても1人が扱う重さは変わりません
- 動かし始めるのに最大に近い力が要るなら筋力から、1回は楽でも続かないなら疲れた状態で続ける練習から始めます。楽に扱えるなら、ランと技術の練習を優先します
- 体重比の目標値(スクワットで体重の1倍〜2倍など)は1社の目安で、「科学的に確立された基準は無い」とする記事もあります
NEWSLETTER
HYROXの情報を続けて知りたい方へ
練習や大会の新しい記事・最新情報をメールでお届けします。登録はメールアドレスだけで、いつでも停止できます。
ご登録の前にプライバシーポリシーをご確認ください。