トレーニング · 11 MIN READ
スレッドプッシュの効果と使う筋肉|研究で分かっていることとHYROXの重さ
スレッドプッシュ(ソリ押し)の効果と使う筋肉を、研究の抄録とHYROX(ハイロックス)公式の資料から整理しました。主に使うのは下半身と体幹です。男性10人の研究では、ふくらはぎ(腓腹筋)の筋電図がバックスクワットより高い結果でした。男子高校生が8週間続けて、短い距離の走り出しが速くなった研究もあります。練習の頻度の目安と、HYROXの部門別の重さも表で示します。

スレッドプッシュ(ソリ押し)で主に使うのは、下半身(太ももの前・お尻・もも裏・ふくらはぎ)と体幹です。肩と腕は体を安定させる役をします。続けたときの効果を調べた研究のうち、編集部が抄録を確かめられたのは1件です。男子高校生のアスリート50人が週2回・8週間続けた研究で、押す重さが軽くても重くても、5〜20mの走り出しのタイムが縮みました。
筋肉の使われ方をバックスクワットと比べた研究(男性10人)では、太ももの前ともも裏は同じ程度で、ふくらはぎ(腓腹筋)の筋電図はスレッドプッシュのほうが61.2%高い結果でした。腰の筋肉はスクワットのほうが74.5%高い結果です。HYROX(ハイロックス)では2番目の種目で、ソリ込み102kg・152kg・202kgのいずれかを50m押します。
出典は、HYROX公式サイトの種目紹介とルールブック、論文データベースのPubMedに載っている研究の抄録(論文の要約)4件、HYROXの模擬レースを測った論文1本、海外のトレーニングガイドです(2026年10月9日時点)。
スレッドプッシュで使う筋肉は下半身と体幹
スレッドプッシュは、重りを載せたソリ(スレッド)を両手で持ち、脚で地面を押して前に進めるトレーニングです。
HYROX公式サイトは、主に使う部位として下半身を挙げ、なかでも体の後ろ側全体・体幹・太ももの前を使うと紹介しています。英国のジムチェーンPureGymと、スポーツウェアブランドGymsharkのトレーニングガイドが挙げる筋肉をまとめると、次のとおりです。
部位 | 筋肉 | 役割 |
|---|---|---|
下半身 | 太ももの前(大腿四頭筋) | 押す動きの中心になる |
下半身 | お尻(臀筋) | 力を生み出す |
下半身 | ふくらはぎ | 前に進む力と安定を支える |
下半身 | もも裏(ハムストリング) | 脚の動きを助ける |
体幹 | お腹(腹直筋・腹斜筋・腹横筋)と腰まわり | 胴体を固めて腰を守る |
上半身 | 肩(三角筋の前側)・二の腕の裏(上腕三頭筋) | 体を安定させる |
2社とも、押す力を出すのは脚だとしています。上半身は挙げ方に少し差があります。Gymsharkは肩と上腕三頭筋を体を安定させる役として挙げ、PureGymは肩と上腕三頭筋に加えて胸と背中の上部も挙げています。
肩は押す力の中心ではありませんが、疲れやすい部位です。PureGymは、脚より先に肩が疲れる選手が多いと書いています。スポーツウェアブランドのSundriedは、肩が早く疲れるなら下向きに押している可能性があるとして、持ち方を見直すよう勧めています。
ロープでソリを引き寄せるスレッドプルは、使う部位が違います。中心になるのは背中・上腕二頭筋・前腕・体幹で、Gymsharkは、スレッドプッシュと比べて体の背面を多く使うとしています。引き方とルールはスレッドプルの種目ページにあります。
バックスクワットと比べた筋肉の使われ方
どの筋肉がどれだけ使われるかを測った研究があります。2014年に学術誌 Journal of Strength and Conditioning Research に載った論文で、スレッドプッシュとバックスクワットを比べています。
参加したのは、筋力トレーニングの経験がある健康な男性10人です。重りを載せたソリを20歩、全力で押したときと、10回で限界になる重さでバックスクワットをしたときの筋肉の活動を、筋電図で測りました。筋電図は、筋肉が働くときの電気的な活動を記録する方法です。

測った筋肉 | 結果 |
|---|---|
太ももの前(大腿直筋) | 同じ程度。統計的な差は無く、スレッドプッシュが8.6〜16.7%高い傾向 |
もも裏(大腿二頭筋) | 同じ程度。統計的な差は無く、スクワットが10.5〜32.8%高い傾向 |
ふくらはぎ(腓腹筋) | スレッドプッシュが61.2%高い |
腰(脊柱起立筋の下部) | スクワットが74.5%高い |
お腹の深い筋肉(腹横筋・内腹斜筋) | 差なし |
太ももの前ともも裏は、スクワットと同じ程度に使われていました。違いが出たのはふくらはぎと腰の筋肉です。ふくらはぎはスレッドプッシュのほうが、腰の筋肉はスクワットのほうが多く使われました。
著者は、この違いを踏まえたうえで、競技の動きに合わせてどちらの種目もトレーニングに使えるとしています。
この研究の対象は男性10人だけで、ソリの重さは抄録に書かれていません。HYROXと同じ重さで測ったかどうかは分からず、女性や運動を始めたばかりの人のデータもありません。お尻の筋肉は測った筋肉に入っていません。腰の筋肉の活動が小さいという結果も、腰への負担が小さいことを直接示すものではありません。
スレッドプッシュの効果について研究で分かっていること
スレッドプッシュの効果に関わる研究のうち、編集部が抄録を確かめられたのは3件です。続けたときの効果を調べたものが1件(男子高校生)、1回の運動での体の反応を調べたものが2件(高齢者・ラグビーリーグの選手)で、分けて紹介します。

男子高校生が8週間続けた研究では短い距離の走り出しが速くなった
続けたときの効果を調べた研究です。2020年に学術誌 Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports に載った研究は、男子高校生のアスリート50人を4つの群に分け、週2回・8週間の練習を続けてもらいました。
- 重りなしで走る群
- 軽いソリを押す群(最高速度が25%落ちる重さ)
- 中くらいの重さのソリを押す群(最高速度が50%落ちる重さ)
- 重いソリを押す群(最高速度が75%落ちる重さ)
結果は次のとおりです。
- ソリを押した3つの群は、重さにかかわらず5〜20mの区間のタイムが縮みました。重りなしで走った群には、統計的に意味のある変化がありませんでした
- タイムの伸びは最初の5mが最も大きく、距離が延びるほど小さくなりました
- 伸びが最も大きかったのは、重いソリを押した群です
- 走るときに出す力とパワーは、どの群でも上がりました。伸びが最も大きかったのは重いソリの群です
著者は、どの重さでもソリを押す練習は重りなしで走る練習より効果があり、短い距離の加速には重い重さが最も効くかもしれないと結論しています。
対象は男子高校生のアスリートで、測ったのは20mまでの走り出しです。ソリの重さは最高速度の落ち方で決めていて、何kgだったかは抄録に書かれていません。大人や女性、運動を始めたばかりの人に同じ結果が出るかは、この研究からは分かりません。
高齢者がソリ型のマシンを押した研究では心拍数・血圧・乳酸が歩く群より高くなった
ここからの2件は、1回の運動での体の反応を測った研究です。続けたときの効果は測っていません。
スレッドプッシュの心拍数と乳酸について、PureGymは、大きな筋肉を一度に使うので乳酸が急にたまり、心拍数が跳ね上がると説明しています。研究で測った例としては、高齢者がソリ型のマシンを押したものがあります。
2024年に学術誌 Journal of Aging and Physical Activity に載った研究は、健康な高齢者36人を、抵抗のかかるソリ型のマシンを押す群と、歩く群に分けました。ふだんの速さの75%から125%まで速さを上げながら、2分の休みを挟んで6本行っています。
ソリを押した群は、速さが上がるにつれて、心拍数・血圧・血中乳酸・主観的なきつさのすべてが歩く群より高くなりました。有害な出来事は無く、全員が最後まで行えています。ソリを押した群の3分の1は、軽い体の不快感を報告しました。著者は、高齢者でも安全に行えたとし、心臓と血管に良い変化をもたらす可能性がある運動だとしています。
この研究が測ったのは、高齢者が専用のマシンを、ふだんの速さの75〜125%で押した1回の運動です。プレートを積んだソリを全力で押すHYROXの種目とは条件が違います。
体重の125%のソリを押した直後は20m走が遅くなった
押した直後の走りを測った研究もあります。2017年に学術誌 Journal of Science and Medicine in Sport に載った研究で、ラグビーリーグの選手20人が、体重の75%または125%の重さのソリを1回押し、そのあと20mの全力走を4回測りました。
- 体重の75%のソリを押したあと:15秒後は0.26%遅く、4分後は0.95%、8分後は1.80%、12分後は1.54%速くなった
- 体重の125%のソリを押したあと:15秒後から12分後までのすべての時点で、1.36〜2.59%遅くなった
体重の75%のソリでは、4分以上おくと走りが速くなりました。体重の125%のソリでは、12分後まで走りが遅いままでした。
この研究で分かるのは、体重の125%のソリを1回押したあとは20mの全力走が遅くなった、という点までです。測ったのは20mの全力走で、HYROXのようにスレッドプッシュのあとで1kmを走るときの影響は調べていません。種目のあとに疲れた状態で走る練習はコンプロマイズドランの記事にまとめています。
HYROXの完走タイムが縮むかは確かめられていない
スレッドプッシュの練習でHYROXの完走タイムが縮むことを確かめた研究は、見つかりませんでした。
関係する研究は1つあります。趣味としてHYROXに取り組む経験者11人が、オープン部門の重さで模擬レースを行った2025年の研究です。週あたりの筋力トレーニングの時間と完走タイムの間に、統計的に意味のある相関は見られませんでした。完走タイムと相関したのは、最大酸素摂取量、週あたりの持久力トレーニングの時間、体脂肪率です。
一方で著者は、ソリのように重い重さを動かす種目があるので、HYROXの練習には筋力トレーニングもある程度含めるべきだとしています。どのくらいの筋力が要るかはHYROXに必要な筋力で扱っています。
海外のトレーニングガイドには、運動後のカロリー消費が増える、筋力が上がる、ジャンプ力が伸びるといった効果を、研究を引いて挙げているものがあります。編集部はこれらの元の論文を確かめられなかったため、この記事では効果に数えていません。脂肪が減る、筋肉が大きくなるといった効果も、編集部がPubMedで探した範囲では、確かめられる研究が見つかりませんでした。
HYROXのスレッドプッシュの重さと距離
HYROXのスレッドプッシュは、8種目のうち2番目の種目です。12.5mのレーンを4本、合計50m押します。距離はどの部門も同じで、重さはソリ本体を含めて3段階あります(2026/27シーズンのルールブック)。
部門 | 重さ(ソリ込み) | 距離 |
|---|---|---|
女子(シングルス・ダブルス・リレー) | 102kg | 50m |
男子(シングルス・ダブルス・リレー) | 152kg | 50m |
女子プロ(シングルス・ダブルス) | 152kg | 50m |
ミックスダブルス | 152kg(女性が押すときも同じ) | 50m |
男子プロ(シングルス・ダブルス) | 202kg | 50m |
ミックスダブルスは男子と同じ152kgで、女性が押す区間も重さは変わりません。全種目の重さはHYROXの重量一覧にあります。
ソリの重さは、スクワットで担ぐ重さとは比べられません。英国のジムReal World Fitnessのコーチの解説記事は、152kgのソリを押すことは152kgのスクワットとは違い、摩擦・床・ソリそのもの・技術・体の位置で必要な力が変わるとしています。大会のソリは練習より重く感じるという指摘も、海外のHYROX情報サイトなど3件にあります。会場の床がジムの床と違い、ソリが動きにくいことが理由に挙げられています。
先ほどの模擬レースの研究では、8種目の区間のほうがランの区間より、心拍数・血中乳酸・主観的なきつさが高くなりました。重い重さを扱う種目ほど短い時間で終わっていて、スレッドプッシュにかかった時間は、参加者11人の中央値で128秒です。論文は、使ったソリが公式の大会のソリとは違うことを、研究の限界として挙げています。
筋肉の使われ方と効果を調べた4件の研究は、どの抄録にも、HYROXと同じ重さ(102〜202kg)で測ったとは書かれていません。押し方のコツ、ルールと反則、日本の大会での区間タイムの目安はスレッドプッシュの種目ページにまとめています。
スレッドプッシュの押し方と練習の頻度の目安
脚で押すための姿勢
押し方について、4件のトレーニングガイド(PureGym・Hybrid Athlete Club・Sundried・Virtuosity)が一致しているのは次の点です。
- 体を低く前に倒して、脚で押す。上体が高いまま押すことは、4件すべてがよくある失敗として挙げています
- 大股にせず、短く速い歩幅で押す
- 途中で止めない。止まったソリを動かし直すほうが力を使うためです(3件)
腕の伸ばし方と持つ高さは、ガイドによって意見が分かれています。それぞれの言い分は、先ほどの種目ページに並べています。
練習の頻度と重さ
項目 | 目安 | 出どころ |
|---|---|---|
頻度 | 週1〜2回 | PureGym・Gymshark |
練習の間隔 | 48時間あける | Gymshark |
何kgから始めるかを定めた公的な目安は、見つかりませんでした。Gymsharkは、まず技術と押す感覚に慣れ、そのあとで重さを増やすよう勧めています。
HYROXに出る人に向けては、PureGymが時期ごとの進め方を示しています。大会の8〜12週間前は軽い重さで技術を固め、4〜8週間前は本番を超える重さまで上げる、という進め方です。
PureGymは、スレッドプッシュのインターバルの例も挙げています。次の4つを上から順に行い、5ラウンド繰り返します。
- 重いソリを15m押す(ほぼ全力)
- 30秒休む
- 軽いソリを15m、速く押す
- 60秒休む
HYROX公式サイトは、大会前に少なくとも1回は実際に押しておくことと、滑りにくい靴を用意することを勧めています。靴の選び方はHYROXのシューズの選び方にあります。
スレッドが無いジムでの練習はスレッドプッシュの代用トレーニングに、ほかの種目も含めたメニューは普通のジムでできるHYROXの練習メニューにまとめています。女性が102kgや152kgに向けて筋力をつける方法は女性のためのHYROXの筋力練習に、重りを持って運ぶ種目の効果はファーマーズウォークの効果にあります。ソリを引く種目の効果はスレッドプルの効果と使う筋肉に、ウォールボールの効果はウォールボールの効果と使う筋肉にあります。
KEY TAKEAWAYS
- スレッドプッシュで主に使うのは、下半身(太ももの前・お尻・もも裏・ふくらはぎ)と体幹です。肩と腕は体を安定させる役です。PureGymは、脚より先に肩が疲れる選手が多いと書いています
- バックスクワットと比べた研究(男性10人)では、太ももの前ともも裏は同じ程度、ふくらはぎはスレッドプッシュが61.2%高く、腰の筋肉はスクワットが74.5%高い結果でした
- 男子高校生が週2回・8週間続けた研究では、軽いソリでも重いソリでも5〜20mのタイムが縮み、伸びは重いソリの群が最大でした。HYROXの完走タイムが縮むかを確かめた研究は見つかっていません
- PureGymは、乳酸が急にたまり心拍数が跳ね上がる種目だと説明しています。高齢者がソリ型のマシンを押した研究では、心拍数・血圧・乳酸が歩く群より高くなりました。ラグビーリーグの選手が体重の125%のソリを押した研究では、12分後まで20m走が遅くなりました
- HYROXでは50mを押します。重さはソリ込みで、女子が102kg、男子・女子プロ・ミックスダブルスが152kg、男子プロが202kgです
- 練習の頻度の目安は週1〜2回です(PureGym・Gymshark)。何kgから始めるかを定めた公的な目安は見つかりませんでした
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