種目 · 12 MIN READ
ウォールボールの効果と使う筋肉|研究で測られた負荷とHYROXの100回
ウォールボールで使う部位として、海外のトレーニングガイド2社がそろって挙げているのは太ももの前と肩です。英国のジムチェーンPureGymは、お尻・太ももの裏・胸・腕・体幹も挙げています。9kgのボールを150回投げた研究では、血中乳酸が3.0から17.5 mmol/Lに上がり、翌日は上半身より下半身に疲れが残りました。スクワットの深さと筋肉の研究3本、HYROX(ハイロックス)の模擬レースの研究、部門ごとの重さと回数、効果として確かめられていないことをまとめています。

ウォールボールは、深くしゃがんだ姿勢から立ち上がる勢いでボールを高い的へ投げ、落ちてきたボールを受けて次のしゃがみに入る運動です。使う部位として海外のトレーニングガイド2社がそろって挙げているのは、太ももの前と肩です。英国のジムチェーンPureGymは、お尻・太ももの裏・胸・腕・体幹も挙げています。ウォールボールだけを150回続けた研究では、血液中の乳酸が運動前より大きく上がりました。
数字で確かめられているのは、続けて行ったときの負荷と、そのあとの回復です。9kgのボールを150回投げた研究では、血中乳酸が3.0 mmol/Lから17.5 mmol/Lに上がり、翌日は上半身より下半身に疲れが残りました。フィットネスレースのHYROX(ハイロックス)を模した研究では、心拍・乳酸・きつさの感覚の最高値が、8種目の最後に行うウォールボールで出ています。ウォールボールを何週間か続けて、筋肉や体重がどう変わるかを測った研究は確認できていません。
読んだのは、ウォールボール150回の前後を測った論文とHYROXの模擬レースの論文(どちらも全文)、スクワットの深さと筋肉の活動を調べた論文3本の抄録(要旨)、高強度のトレーニングの研究39本をまとめた論文の抄録、HYROXのルールブック、海外のトレーニングガイドです(2026年10月9日時点)。
ウォールボールで使う筋肉としてトレーニングガイドが挙げる部位
ウォールボールは、スクワットと、ボールを頭上の的へ投げる動きを、1回ごとにつなげて行います。HYROXのルールブックは、1回の動きを次のように決めています。
- ボールを両手で持ち、腰と膝を伸ばして立った姿勢から始める
- 腰が膝より低くなるまでしゃがむ(フルスクワット)
- 両手で投げて、的に当てる
- 落ちてきたボールを受けて次の回に入る。床に弾ませた場合は、立った姿勢に戻ってから再開する
使う部位を挙げている海外のトレーニングガイドは2社あります。英国のジムチェーンPureGymは、大腿四頭筋(太ももの前)、臀部(お尻)、ハムストリングス(太ももの裏)、胸、肩、腕、体幹を挙げています。HYROX向けのパーソナルトレーニングジムHunger in the Wildは、ウォールボールに要るものとして、大腿四頭筋の持久力、肩の持久力、疲れた状態でスクワットから押し上げるリズムを保つ力を挙げています。2社に共通するのは、太ももの前と肩です。
Hunger in the Wildは、部位と動きの対応も書いています。フロントスクワットで付けた太ももの前の筋力がスクワットの部分を楽にし、押す種目で付けた肩の強さがボールを軽く感じさせる、という説明です。
動きごとに、使う部位と根拠を並べると次のようになります。
動き | 使う部位 | 根拠 |
|---|---|---|
しゃがむ・立ち上がる | 太ももの前、お尻、太ももの裏 | 太ももの前はトレーニングガイド2社、お尻と太ももの裏はPureGym。スクワットの筋肉の活動を測った研究3本 |
ボールを投げる・受ける | 肩(PureGymは腕と胸も挙げる) | トレーニングガイド2社。筋肉の活動を測った研究は確認できていない |
姿勢を保つ | 体幹(背中・お腹) | PureGym、スクワットの研究1本(深くしゃがむほど背中の筋肉の活動が増えた) |

ウォールボールの最中の筋肉の活動を、筋電図(筋肉が働くときの電気的な活動を皮膚の上から記録する方法)で測った研究は見つかっていません。表の根拠のうち研究にあたるのは、スクワットを測ったものと、ウォールボール150回のあとの疲れを部位ごとに聞いたものです。どちらも次の節から順に紹介します。
スクワットの深さで筋肉の使われ方が変わる
HYROXのウォールボールでは、毎回、腰が膝より低くなる深さまでしゃがみます。深さが足りない回は数えられません(ノーレップ)。しゃがむ深さによって筋肉の使われ方がどう変わるかは、バーベルを担ぐバックスクワットで調べられています。
研究 | 参加者 | 重さ | 比べた深さ | 結果 |
|---|---|---|---|---|
Caterisano ほか(2002年) | スクワットの経験者10人 | 体重の100〜125% | 浅い・パラレル・フルの3段階 | 立ち上がる局面で、測った4つの筋肉の活動に占める大殿筋(お尻)の割合が、16.9%・28.0%・35.4%と深いほど大きかった。太ももの前と裏の割合には差が無かった |
O'Neill・Psycharakis(2024年) | グループレッスンに通う女性10人 | 体重の23%と38% | 膝の角度90°と125° | 深さによる差が、太ももの前(外側広筋)と大殿筋の活動、太ももの裏とふくらはぎの最大の活動に出た |
Park ほか(2026年) | スクワットの経験が2年以上ある男性22人 | 最大挙上重量の80% | 膝を曲げる角度50°・90°・130° | 深いほど、大腿四頭筋と背中(脊柱起立筋)の活動が増えた。お腹(腹直筋)は立ち上がる局面で差が出た。大殿筋の変化は限定的だった |
3本に共通するのは、しゃがむ深さを変えると筋肉の使われ方が変わるという点です。どの筋肉の活動が大きくなるかは一致していません。2002年の研究は、深いほど大殿筋の割合が大きくなったとしています。2026年の研究では、大殿筋の変化は限定的で、増えたのは太ももの前と背中でした。2024年の研究の抄録は、差があった筋肉を挙げていますが、深いほうと浅いほうのどちらで活動が大きかったかは書いていません。
2026年の研究の著者は、しゃがむ深さは1つの筋肉だけを狙うためのものではなく、膝を伸ばす筋肉・体幹・体の後ろ側のどこに重点を置くかを調整するために使える、とまとめています。
ウォールボールに当てはめるときは、次の2点に注意が要ります。
- 3本とも、バーベルを担ぐスクワットの研究です。重さは体重の23%から最大挙上重量の80%までで、4〜9kgのボールを体の前で持つウォールボールとは、重さも持ち方も違います
- どれも、その場で筋肉の活動を測ったものです。深くしゃがむ練習を続けると筋肉がどう変わるかは調べていません
ウォールボールを続けて行ったときの血中乳酸と心拍
ウォールボールを続けたときの体の反応は、2つの研究で測られています。ウォールボールだけを150回行った研究と、HYROXのレース全体を模した研究です。血中乳酸は、強い運動をすると血液中に増える物質の濃度で、運動のきつさの目安として測られます。
ウォールボールだけを150回行った研究
2022年に学術誌 Frontiers in Physiology に載った研究は、クロスフィットで「Karen」と呼ばれる定番のメニューを使いました。9kgのボールを高さ3mの的へ150回、できるだけ速く投げるメニューです。参加したのは、週5回のトレーニングを続けている男性8人(平均28.4歳、バックスクワットの最大挙上重量は平均139.1kg)です。
- 150回にかかった時間は平均597秒(10分弱)。最も速い人が495.6秒、最も遅い人が795秒
- 血中乳酸は、運動前の3.0 mmol/Lから、直後は17.5 mmol/Lに上がった
- その場で反動をつけて跳ぶ垂直跳びの高さは、直後に運動前より低くなった
著者は結論で、ウォールボールをくり返す1回のセッションが大きな代謝的な負荷を起こした、とまとめています。
9kgのボールと3mの的は、HYROXの男子プロと同じ重さ・同じ高さです。回数の150回は、HYROXの100回の1.5倍にあたります。
HYROXの模擬レースで値が最も高かったのは最後のウォールボール
2025年に同じ学術誌に載った研究は、趣味としてHYROXに取り組む11人(男性8人・女性3人、HYROXの経験は中央値18か月)が、オープン部門の基準でレース全体を模して行ったときの心拍、血中乳酸、主観的なきつさを測りました。きつさは6〜20の点数で答える尺度(RPE)です。完走にかかった時間の中央値は86.5分でした。
- レース時間の79.5%は、最大心拍の90〜100%にあたる「とてもきつい」強度だった。19.6%は、70〜90%の「きつい」強度だった
- 血中乳酸の最大値は、種目のあとが8.5 mmol/L、ランのあとが7.7 mmol/L
- きつさの最大値は、種目が18、ランが16
- 心拍・乳酸・きつさの3つとも、最も高い値は最後のウォールボールで出た(最大心拍183拍/分、血中乳酸8.5 mmol/L、きつさ18)
数値は11人の中央値です。
この結果は、ウォールボールだけの負荷を切り分けたものではありません。HYROXのウォールボールは、合わせて8kmのランと7つの種目を終えたあとに行います。それまでの疲れが重なった状態での値です。
回数にも違いがあります。この研究のウォールボールは、男性が6kgで100回、女性が4kgで75回でした。女子の75回は当時の規定です。海外メディアのRox Lyfeは、女子のオープンと女子ダブルスの回数が2024年9月の大会から100回に変わったと記録しています。今のルールブックでは全部門が100回です。
著者は、HYROXは持久力の比重が大きく、最大筋力・協調性・柔軟性への要求は、ほかの高強度のトレーニングと比べて中程度から低い、と結論しています。
ウォールボール150回の翌日は下半身に疲れが残る
150回の研究は、運動の24時間後・48時間後・72時間後にも測定をしています。
- 筋肉のダメージの目安として使われる血液中のクレアチンキナーゼ(CK)は、運動前の143.3 U/Lに対して、24時間後は338.4 U/Lでした。48時間後と72時間後は、運動前との差がありませんでした
- 垂直跳びの高さは、24時間後には運動前との差がなくなっていました
- 回復の感覚を0〜10の点数で答える尺度(0が「まったく回復していない」、10が「とてもよく回復している」)は、24時間後に、全身が7.7から4.7へ、上半身が7.5から6.6へ、下半身が7.3から3.9へ下がりました。48時間後と72時間後は、3つとも運動前との差がありませんでした

24時間後の下がり幅は、下半身が3.4、上半身が0.9です。24時間後と48時間後は、どちらも上半身の点数が下半身より高くなっていました。著者は、下半身のほうが上半身より回復に時間がかかったと書いています。下半身と上半身の違いは、参加者が自分で答えた回復の感覚の点数に出たものです。
著者は、この違いを練習の組み方に使えるとしています。次の練習を上半身中心にするか下半身中心にするかを選ぶ、次の練習の強さを抑える、といった使い方です。ただし、これは著者の提案で、この研究で効果を確かめたものではありません。
参加者は、トレーニングを積んだ男性8人だけです。著者は限界として、人数が少ないこと、食事を管理していないこと、睡眠やストレスを調べていないことを挙げ、ほかの集団に当てはめるには注意が必要だとしています。4kgや6kgのボールで100回行ったとき、女性が行ったとき、初めての人が行ったときに同じ経過になるかは分かりません。
レースのあとの体の戻し方はHYROXのあとの筋肉痛と回復にまとめています。
HYROXのウォールボールの回数・重さ・的の高さ
HYROXでは、8種目の最後、8番目にウォールボールを行います。回数は全部門で100回です。ボールの重さは部門で決まっています(2026/27シーズン)。
部門 | ボールの重さ | 回数 |
|---|---|---|
女子(シングルス・ダブルス・リレー) | 4kg | 100回 |
女子プロ(シングルス・ダブルス) | 6kg | 100回 |
男子(シングルス・ダブルス・リレー) | 6kg | 100回 |
ミックスダブルス | 6kg(2人とも) | 100回 |
男子プロ(シングルス・ダブルス) | 9kg | 100回 |
的の高さは、女性が2.70m、男性が3.00mです。ダブルスのルールブックでは、的の高さは投げる本人の性別で決まります。ミックスダブルスでは、2人が同じ6kgのボールを、それぞれ違う高さの的へ投げます。
ダブルスは、2人で合わせて100回です。1人が投げている間もう1人は休み、交代する回数は自分たちで決められます。リレーは、ウォールボールを担当する1人が100回を最後まで行います。
この記事で紹介した研究の条件を、部門と見比べると次のようになります。
- 150回の研究(9kg・的3m)は、男子プロと同じ重さ・同じ高さで、回数が多い
- 模擬レースの研究の男性(6kg・100回)は、男子の部門と同じ重さ・同じ回数
- 模擬レースの研究の女性(4kg・75回)は、女子の部門と同じ重さで、回数が今より少ない
- 女子プロやミックスダブルスの条件で測った研究は、今回読んだ中にはありません
判定の基準、ノーレップになる動き、ダブルスで加わる決まりはウォールボールの種目ページにあります。全種目の重さはHYROXの重量一覧に、ウォールボールにかかる時間の目安はHYROXの種目別タイムの目安にまとめています。
ウォールボールの効果として確かめられていないこと
医学論文のデータベースPubMedで、題名か抄録に「wall ball」を含む論文を調べると、19件ありました(2026年10月9日検索)。その中に、次の2つを測った研究は見つかりませんでした。
- ウォールボールの最中の筋肉の活動(筋電図)
- ウォールボールを何週間か続けたときの、筋肉・筋力・体重などの変化
消費カロリーも、数字を示せる資料がありません。運動の強さ(メッツ)の国際的な一覧である Compendium of Physical Activities の2024年版には、ウォールボールやメディシンボールを投げる運動の項目が見つかりませんでした。メッツから消費カロリーを計算することもできません。
「ウォールボールで痩せる」「お尻や肩の筋肉が大きくなる」といった効果は、今のところ数字で裏付けられていません。
近い資料として、高強度ファンクショナルトレーニング(HIFT。クロスフィットやHYROXのように、筋力と持久力の種目を高い強度で組み合わせるトレーニング)の研究39本をまとめた2025年の論文があります。最大酸素摂取量が8〜15%、主な種目の筋力が10〜20%伸びたという報告が多い、とまとめています。これは、さまざまな種目を組み合わせたトレーニング全体の結果です。著者も、特定の大会に結びつく効果とはしていません。ウォールボールだけを行ったときの効果を表す数字ではありません。
減量を目的に始める場合の考え方はHYROXの練習で痩せる?で扱っています。
ウォールボールの練習で意識する3つの動き
海外のトレーニングガイド3社(PureGym・Hybrid Athlete Club・Velites)は、投げ方の要点として同じ3つを挙げています。
- 深くしゃがむ。3社とも、浅いスクワットよりも、腰が膝より下まで下がるフルスクワットを保つことを重視しています。Velitesは、疲れる前に基準を体に覚えさせるため、最初は規定より深くしゃがむことも勧めています
- 脚の力で投げる。3社とも、投げる力は脚から生み出すとしています。Velitesは、腕の力だけに頼って投げることを、よくある失敗に挙げています
- 沈みながら受ける。3社とも、落ちてきたボールは次のしゃがみに入りながら柔らかく受けるとしています
大会では、深さが足りているかを審判が見ます。深さの目安として、審判の判断で箱(スクワットデプスボックス)が使われることがあります。選手が自分から求めることはできません。
多い回数を全力で行う練習の日をどこに置くかは、150回の研究の経過が参考になります。翌日は下半身の回復の感覚が下がり、2日後には運動前との差がなくなっていました。1週間の練習の並べ方はHYROXの練習は週何回?にまとめています。ソリを使う種目の効果はスレッドプッシュの効果と使う筋肉とスレッドプルの効果と使う筋肉にまとめています。
ボールや的が無い場合の練習はウォールボールの代用トレーニングに、ボールを買う場合の重さと値段はHYROXのウォールボールは何kgを買う?にあります。
KEY TAKEAWAYS
- ウォールボールは、深いスクワットと、ボールを高い的へ投げる動きを続ける運動です。使う部位として海外のトレーニングガイド2社がそろって挙げているのは太ももの前と肩で、PureGymはお尻・太ももの裏・胸・腕・体幹も挙げています。ウォールボールの最中の筋肉の活動を測った研究は確認できていません
- しゃがむ深さで筋肉の使われ方が変わることは、スクワットの研究3本に共通しています。深いほどお尻の筋肉の活動が増えるかどうかは、研究によって結果が違います
- 9kgのボールを150回投げた研究(男性8人)では、血中乳酸が3.0から17.5 mmol/Lに上がりました。翌日は下半身の回復の感覚が7.3から3.9に下がり、2日後には運動前との差がなくなっていました
- HYROXの模擬レース(11人)では、心拍・乳酸・きつさの感覚の最高値が、最後のウォールボールで出ました。それまでの疲れが重なった状態での値で、ウォールボールだけの負荷を表す数字ではありません
- HYROXのウォールボールは全部門100回で、ボールは4kg・6kg・9kg、的の高さは女性2.70m・男性3.00mです。続けたときに体重や筋肉がどう変わるか、何kcal使うかを示せる資料は、今のところありません
NEWSLETTER
HYROXの情報を続けて知りたい方へ
練習や大会の新しい記事・最新情報をメールでお届けします。登録はメールアドレスだけで、いつでも停止できます。
ご登録の前にプライバシーポリシーをご確認ください。